【第27号】香山リカ講演会と私
東北大学医学部同窓会の特別講演会場。座って講演が始まるのを待っていると、ジーンズをはいた普段着のアシスタントの女性がパソコンの準備をしていた。座長による紹介が終了したらなんとその普段着のアシスタントの女性が話始めるではないか! ああこの人があの『香山リカ氏そのものなのか』とはじめてわかった。やや色黒で思いのほか雰囲気は地味である。
しかし講演が始まる同時に、香山氏はウルトラセブンがグラスを目につけ変身するように、黒ぶちのメガネをかけた。するとどうだろう。まさに『変身』! とたんに表情がきりっとし、早口ため口でペラペラと話し始める。講演が進むにつれ、どんどんテンションが上がり、香山氏はマイクを持ちながら少しづつ前に進み出る。最後はひな壇の一番前に(笑)。色黒の顔がピンク色に紅潮し、講演が終わったときは『やった』という晴れやかな表情をしておられた。御自身の著書で『上昇の勝間、下降の香山』、『B級感がつよい』と卑下されているが、著書100冊書かれ、講演もお好きで…。決して『下降の香山』という感じではないなあと感じた。
講演の内容は、医者と教育者、書作者など多面性をおもちの氏にしてはじめて可能となる複雑な現代の若者像の解釈という内容で、特段結論があるわけではない講演だったが、話は大変に面白かった。
講演によると、現代の若者は小学校の頃から、『何かにならなければならない』、『自己実現しなければならない』といったことが強いられている。その中で打たれ弱い面がある一方なにかになっていない自分には満足できない。自分への要求水準は高いらしい。
講演をきいていてそれは私そのものの問題だと思わざるを得なかった。ただの医者では面白くない。それで漢方。仕事だけでは面白くない。それでワイン。だたのワイン飲みでは面白くない。それでワインエキスパート。日本のワインエキスパート資格だけでは面白くない。ワインエキスパートコンクール出場、さらに将来はシニアワインエキスパート…。その他料理、ストリートダンス、畑…。要求水準の拡大は現在進行形である。
香山氏は、時々、これでいいのかと思うことがあると。でもこうも言った。全ての仕事を100%こなすことはできない。全部すこしずつやっていると。そしてすこしずつ色々なことをやっている多面性が複雑な精神科患者の診療に役に立っているのだと。私も色々なことに手を出していることが診療に役に立っていると信じたい。香山氏は今回の講演を今の自分への言い訳であると位置付けたが、私にとっての言い訳にもなるなと思われた講演であった。
発行日:2010.06.01